とある旅路での事。
旅の疲れを癒す為
木造で昭和の香りのする
銭湯へ立ち寄る。
番頭さんにお金を払い赤い暖簾をくぐると
錆が愛おしい歴史を感じる体重計。
自販機の横には綺麗に
整頓された空瓶とケース達。
なんとも言えぬ暖かい空間で
衣類を大切に畳む。
あらゆる締め付けから解放され
反響する空間へといざ参ろう。
檸檬色のケロリン桶を片手に
自分の身体を大切に洗い
道中の疲れを労う。
さてさて、
それでは湯に浸かろうではないか。
いつもよりもゆっくり呼吸をし
肩まで浸かる。
光がさし
水面がキラキラと
踊っている。
目を閉じてみた。
シャワーやカランから
水が流れる
ザーという音。
水紋のように広がる
風呂桶のカポンという音。
誰かと誰かが浸かる音。
チャポン
チャポン
カラン
カポン
チャポン
チャポン
カラン
カポン
誰かと誰かが話している。
大人と子供の笑い声。
男湯「おーい!母ちゃん、
そろそろ出るよ」
女湯「父ちゃん、ありがと。
分かったよ。私は髪の毛乾かすからね。
先に、父ちゃん出といてくれよ。」
湯の上、
立ち込めた煙越しに
突然始まる家族の会話。
本人達はどうか分からぬが
風情があるなとしみじみ感じる。
お湯が私の身体をなでてくれる。
木材の持つ心地良さ。
この地の恵に身体を浸し
その上、日々の生活の美しさに包まれた私は
ただただ満ちていく。
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